水産加工会社が副業人材とともに生産管理システムの開発と外販を目指す。

水産加工業 × IT人材(エンジニア)

有限会社中村海産 @富山県氷見市

副業・兼業者
エンジニア:20代男性(首都圏在住) 大手企業のシステムエンジニア
契約形態
業務委託
業務内容
生産管理システムの開発

魚のまち・富山県氷見市で大正10年の創業以来「おいしくて、体にやさしいみりん干し」をつくり続けている有限会社中村海産。社長自らこれまで手書きだった生産管理をexcel化したことから、生産管理システムの開発・外販という新たなビジネスを思いつき、副業人材のエンジニアを活用しながらシステムの開発を進めています。

副業人材を活用した背景について教えてください。

海産物の加工食品の製造にとって、生産調整は非常に重要です。製造が少なすぎて欠品になってもいけないし、逆に多すぎても在庫過剰になってしまう。バランスが大事ですよね。当社では創業以来、これを手書きの生産管理表で管理してきたんです。少しでも狂うと全体を見直さなければならず、電卓を叩きながら、修正があると二本線で消して修正するような古風なやり方です。時間もかかるし、調整がうまくいかないとスタッフに急な残業をお願いしなければならず、心苦しさも感じていました。

そこで、自分でExcelの管理表を作りました。試行錯誤しながら、足りないものを加え、いらないものは削ってと、1年近く繰り返しているうちに精度も高まってきて、生産量を入力すると、必要原料や工場の稼働予定・製造時間を算出しながら、人件費や売上・利益が見えるようなものができました。実際にスタッフの残業時間を減らせたり、新しい管理表による効果も出ています。

これをソフト化できれば、私がいなくなっても誰かがソフトを使って管理できるし、そうした属人化しない生産管理システムは他所にも売れるものになって、当社の新しい事業になる。今ではなく、会社の将来のためにお金を使いたい。そうしたビジョンを取引先の北國銀行に話したところ、副業人材の活用を勧められたんです。

依頼する内容はどのように決めましたか?

システム開発には新規事業として取り組むので、私が全て決めました。銀行の担当者には「サポートが必要であれば言ってください」と言われたのですが、自分で決めたかった。今までも自分でとりあえずやってみて、自分で納得した上で物事を決めてきたので、今回もそうしたいと思い、求人票の作成から人材の決定に至るまで、すべて自分一人で行いました。

副業人材のマッチングサービスに登録している人材はマーケティングや企画系を得意とする人が多く、私が求める技術系の人材は少ないのでは?とも言われましたが、まずはやってみよう、それでダメなら他の手を考えようと思いました。

インタビューで質問に答える中村海産の中村社長

中村海産 中村社長

求めていた人材の要件はありますか?

まずはバックエンドエンジニアとして、システムを開発できる能力があることですね。SaaSのシステム開発はExcelとは別次元の話なので、私が行ってきた生産管理のイメージを設計図としながら、言語や開発環境に落とし込んで、SaaSのサービスという「形」にしてくれる人を求めていました。

また、欲を言えば、私が考えた生産管理自動化のノウハウを超えてくれるような、新しい発想を持ち込んでくれる方と会いたいと思っていました。Excelは私が作ったので、私の脳内には私なりの生産管理の方法があるのですが、それをそのままつくっても面白くないので。

面談時のポイントや採用した決め手について教えてください。

要件が難しいので、ちゃんと応募が来るのかと不安もありましたが、6名の方からの応募をいただきました。まずは応募書類から、その人の持つスキルを見させてもらいました。その後、1週間ほどかけてオンラインで全員と面談をしましたね。面談では会社の現状や課題を伝えた上で、私がいなくなっても会社だけは回り続ける体制が作りたいと、この新規事業の意義を話しました。アドバイスはできるけど実際に手は動かせないという人や、具体的な提案をしてくれない方はお断りして、最後は人柄で選びました。採用した方は「この言語で、この開発環境でどうでしょう?」と具体的な提案をしてくれましたし、一緒にやっていけそうという気がしたので、即決でしたね。

採用決定後、人材をこちらに呼んで、丸一日をかけて会社や商品を説明して、どんなシステムにしたいかを話し合いました。人材にとっては水産業という異業種の世界なので、まず当社の仕事を理解してもらわないとプロジェクトが進みませんから。打ち合わせ後には夕食も一緒に食べに行きましたね、お陰でお互いの理解が進んだと思います。

どんな形で支援をしてもらいましたか?活動期間・内容、契約形態について教えてください。

プロジェクトは私と人材の二人で進めているので、慌てているわけではないし、相手は副業なので、やれる範囲でお願いします、ということは最初から伝えています。うまくいかない時もあるかもしれないけど、当社の主力商品はあくまでみりん干し。商品に直結するものではないので。 最初の半年はお試しで契約しましたが、技術力や開発のスピード感も問題なく、これからもずっと一緒にやっていきたいと思える関係が築けたので、さらに一年間、再契約をしました。また、長期の関係を築きたいので、インセンティブも設定しています。打ち合わせは月に1回のオンラインミーティングが基本ですが、時には2回の月もありますし、普段はチャットツールのスラックを使って進捗状況を報告してもらったり、こちらの要望や資料を渡したりと、随時連絡は取りあっています。

また、今年に入ってプロジェクトの仲間がもう一人増えました。当初から人材に「自分はバックエンドエンジニアなので、ある程度まで進んだらフロントエンドエンジニアを入れることも必要になる」と言われていたこともあり、富山県の人材派遣会社からの紹介で今年の5月から新たにフロントエンドのエンジニアとも契約しました。もちろん、採用にあたっては人材にも面談に加わってもらい、見極めてもらいました。2人が合わないと、これからのプロジェクトも進まないと思いましたから。今は私を含めた3人でいい関係が築けていると思います。

人材と社員の関わりについて教えてください。

あくまで新規事業として私と人材の二人で始めたプロジェクトなので、本業に影響がないように、社員は関わらせていません。

どのような業務を任せましたか?

システムのバックエンドの開発をお願いしています。私はプログラマー出身ですが、もう10年も前のことで知識は皆無に等しいし、人材も副業なので、何をしたかの細かな報告は求めていません。バックエンドのエンジニアとして、「ここまでは自分でできる。あとはフロントエンドエンジニアの仕事」というところまでもっていってくれた人材には感謝しています。

成果はありましたか?また、課題点についてもあれば教えてください。

課題としては、オンラインでのやり取りがメインなので、実際に会って話すよりも伝わり方が浅いという気はしますね。でも、頻繁に現地まで来てもらうのは難しいですし、手軽にやり取りできるのは大きなメリットだと思っています。また、副業人材を活用してみて、ビジネスを進める上でのヒントをもらうこともできました。例えば、今、会社のロゴの刷新を考えているのですが、以前だと「この金額で作ってもらう」という提示しかできなかった。それが副業人材の活用を経験したことによって、デザイン会社に対しても、システム開発時と同じように「月いくら、1年かけて作成してください」というお願いができるようになりました。

システムはまだ開発中なので、販売できるようになるのはもう少し先です。まずは2023年8月のシーフードショーにデモ版を出展することができましたが、ブースが少なく商談の機会があまりなかったので、もっと多くの方に見てもらえるよう、24年2月のシーフードショーに向けて次のデモ版を準備しているところです。生産管理システムの開発プロジェクトは、新たな人材も迎えたことで、これからどうやって作るのか、どこまでお金をかけるのかという選択を迫られることもでてくると思うので、引き続き検討をしていきたいと思っています。

他の活用事例